自由道は燃えているか!?「第2話」

掃除夫と呼ばれた男

その昔、ゲームには

  • アーケードゲーム(ゲームセンター)
  • コンシューマー(家庭用ゲーム)
  • PC(パソコン)

それ以外にもう一つのジャンルが確立していた。
それは、デパートやゲームショップの店頭に並んでいた。
「貸しゲーム台」(こういう表現で正しのか?)
この形態は、旅館のTV方式でワンコイン(大抵50円)で10分ぐらい
ファミコンが出来るというシロモノだった。
そこでは、色々なゲームが出回っていたが
時間によってゲームを打ち切る形式なのでアクションゲームなどの
その一瞬一瞬が楽しめる面クリ形のゲームが大半を占めていた。
その中でも群を抜いて人気を集めていたのは
マリオブラザーズ
だった。
第二話『掃除夫と呼ばれた男
誰もが知っている任天堂の顔役、マリオ。爆発的に人気が出たのは
スーパーマリオブラザーズ」の方かもしれないが、マリオの顔と名前を
子供たちが、はっきりと認識したのはコチラの
只の「マリオブラザーズ」が非常に面白かったと、記憶に残っているからだ。
確かに、このゲームには任天堂の遊びに賭ける情熱が込められていて
敵の動きや出現パターン、マリオの操作性など、ミスさえしなければ
次々と敵を倒せて、面をクリアー出来る仕組みになっている。
そんな素晴らしいゲームではあったが、ファミコン初期の作品なので
その当時、ファミコンの本体を持っている人口は少なく
持っていない人は、どうして遊んだかと言うと友達の家でワイワイ楽しんだか
もう一つの選択肢としての「貸しゲーム台」があった。
そこでは「沢山の面をクリアーして腕を磨く友達の家で遊ぶ感覚」より
「限られた時間内で、如何に楽しく遊ぶか?」という事に、重点を置いて
子供ながら懸命に遊び方を工夫した。


マリオブラザーズは、画面内の敵を2人で協力してやっつけて楽しむゲーム
なのだが、毎回同じ時間内でクリアー出来る範囲は限られている。
遊ぶ度に違うノリを楽しみたい子供達は、勝手に
ゲームに攻撃側(マリオ)と守備側(ルイ−ジ)のプレイヤーに別け
新しいルールを取り決めた。

  • マリオは敵を全滅させ、その面をクリアーすれば勝ち。
  • ルイ−ジは攻撃側の邪魔をして、マリオをゲームオーバーにすれば勝ち。



一見すると、邪魔をするだけのルイ−ジの方が有利のような感じがするが
守っているはず敵キャラには、そんな思いが通じるハズも無く
マリオ、ルイ−ジ両方に襲い掛かってくる。マリオにとっても
ルイ−ジがいなければクリアーは簡単なので、ルイ−ジと同じように
相手の行動の邪魔をする。
そして、敵キャラが残り1体になったあたりで、その駆け引きは
ヒートアップしてくる。
「ヤルか、ヤラレるか」の手に汗握る大混戦となり
順番を待つ子供達も思わず息を呑む。
制作者の思惑とは違う新しいゲームとなって、その時代の子供には
それが当たり前の「楽しみ方」で遊ばれた。
それは産まれるべくして産まれた「2P対戦」。
ローカル・ルールの誕生だ。


制作者の意図には反して協力プレーではなく、対戦ゲームとして名を挙げた
マリオブラザーズ」。このゲームが名作に成り得たのは
家庭用ゲーム機ファミコンで、時間やお金の事を気にせず遊ぶゲームでもなく
ゲームセンターで、ワンコイン長時間遊ぼうとするゲームでもなく
「貸しゲーム台」という特殊な環境と、その場所で楽しむ事を追求した
子供たちの知恵が産んだ、最高傑作。
そういった環境で育った子供達が、後の対戦ゲームのブームを
支えているのだろう。
あの頃の興奮が忘れられなくて・・・


ゲームを遊ぶだけではなく、自由な発想で工夫して楽しんだゲーム。
その心意気。正に、天晴れ!


「掃除夫と呼ばれた男」は、今もなお新しい遊びを探し求めている。


以上『日刊ゲームスクウェア』 2001/06/23号より
前回までの『自由道は燃えているか!?』はコチラで読めます。