「秘剣」

岩本虎眼Byシグルイ6巻

若き士ども嗜むべきこと*1あり。
剣術に秘剣と称するものあるなり。
必勝不敗を謳い 何事をするぞといへば
我は相手の刃を貰わず 我の刃のみ相手に当てんと
身をよじり七転八倒する術理なり。
まこと沙汰の限りなり*2
我のみ助からんとして 相手の目をかすめたる様は
盗人の働きと大差なきものなり。
曲者*3の用いる術理は たたの一通りなり。
太刀を担ぎ 届く所まで近寄りて振り下ろすばかりなり。
これには智慧業も入らざるなり。
我の刃が届くからには 相手の刃もまた届くものなり。
要は踏みかけて切り殺さるる迄なり。
仕果たすべきと思わば 間に合わぬものなり。
曲者というは勝負を考えず 無二無三に死狂ひするばかりなり。
これにて夢覺むるなり。

シグルイ 6 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 6 (チャンピオンREDコミックス)

ということで、シグルイ6巻を購入。
5巻には無かった巻末のコメントと、次回予告が復活して
雑誌派で読んでいる人間にも、十二分に楽しめる単行本になっていました。
けど、上記に掲載した「秘剣」なる一文は、誰のコメントなんだろうか?
これはまさしく、虎眼流の秘剣「流れ」について述べた文章になっては居るけれど
はたして誰が虎眼流について語ったものなのだろうか?
南條範夫さんが、死ぬ間際シグルイの漫画を読まれて
この一文を、山口貴由に託したのであろうか?
虎眼流の色んな技や、その流儀に付いて山口流解釈が、どんどん増えていくけれども
原作に比べて、格段と強くなったのは
岩本虎眼でも、伊良子清玄でも、藤木源之助でもなく
ありとあらゆる拷問的仕置の中で、たくましく生き延びている御愛妾の「いく」だろう
右乳首は千切られ、左乳首は焼き鏝、背中に彫物を入れ、そしてズバッと皮膚を切られる。
そんな仕打ちを受けてなお、死にきれず己の愛する人と添い遂げようとする
その心意気こそが本物のシグルイではないだろうか?

触らぬ”いく”に祟りなし

と、掛川無惨と唄われる「いく」こそが、本編の主役となるべく人物だろう。
そう考えると「いく」と話をしているシーンの無い
藤木源之助が生き残るのは納得がいく。
この辺りは、最後までどうなるかは判らないけど
いずれ魔性的要素に開眼する「いく」の出生の秘密が明かされる日も来るかもしれません。
原作では松阪の商家の娘となっているけど、漫画の方では
まだ詳細が明らかになっていないので、これからに期待します。
ひょっとすると、上記の文章を書きとめたのは「いく」かも知れませんね。
「いく」は四季屋という店で仕事をしていたらしいので
読み書き算盤は習得しているはず。
武芸に対して、さらには虎眼流に対しては悪意しか抱いていないでしょうから
かの様な文章をしたためたのかも知れません。
3巻のラストのナレーションで

この日生まれ出でた怪物は二匹
いや三……

とあり、三重のアップで終わっていますが
三匹目の怪物は、三重ではなく「いく」だという可能性も有るかも…

*1:嗜むべきこと=心得ておくこと

*2:沙汰の限り=言語道断

*3:曲者=強者、剛の者